学び続ける力と問題解決―シンキング・レンズ,シンキング・サイクル,そして探究へ

せっかくの初めての単著の発売なのに、今になってブログに載せるなんて、すいません.

本当に良きチャンスをいただいていたにも関わらず、ずっと書けずに、年の単位で遅れていた.さすがにまずい…というタイミングが来てしまい、これまでのプロットを無視して書きたいことからどんどん書いていった.そしたらあっという間に書き終わったという本.村上君には同じ事ばかりですねーと言われたけども、これが限界だった.

結局、プロットとも異なる内容になった.そして、編集長のアイディアでこんな大胆なタイトルに.うーむ.私からICTを取り上げて売れるのか心配だったけども、ありがたいタイトルで納得.

現在2刷となった.こちらもありがたい.

以下にまえがきをお示しする.

 どうしたら問題を解決する力がつくのか,過去から重要だといわれているのにどうして指導法が確立しないのか,児童生徒一人一台端末が前提となった授業ですべきことは何だろうか,と考え続けた.

 まずたどり着いたのは,決して最初から多くを示してはならないということである.例えば,学習指導要領解説には「考えるための技法」として,比較する,分類する,関連付けるなど10個ほどが示される.どれも重要ではあるが,示せば示すほど,親切で分かりやすいものの,指導者はこれらをしっかりと教えようと努力し,学習者はこれらを身につけようと努力する.まるで受験勉強のようにである.結局,コンテンツ・ベースの学習に落とし込んでしまう.

 コンピテンシー・ベースの学習として,つまり実際に行動できるレベルまで高めるには,自分自身が納得しながら,そうした力を少しずつ手に入れたり,その力を少しずつ拡張したりしていくしかないと思った.学び続ける力をつけるとはこういうことであろう.その際,必要となる最も基本で汎用的な要素とは何かと考えた.それがシンキング・サイクルやシンキング・レンズである.

 シンキング・サイクルやシンキング・レンズを,各教科等での学習や学校生活のみならず,日常生活での問題解決にも使ってみる.様々な場面に適用できることが分かる.それが分かれば,もっと適用したくなる.ほとんど同じパターンだが,少しずつ拡張していることが分かってくると面白さを感じてくる.拡張のためのコツすら手に入れ始める.気がつけば,比較だけではなく,分類や,関連付けも知りたくなる.いや,自然とやってしまっている子供もいる.

 最小の要素としてのシンキング・サイクルやシンキング・レンズであるので,記憶すること自体は比較的に簡単である.あっという間に覚えられるし,分かったつもりにもなれる.そして実際の問題解決において,これらを単純に適用してみれば,型にはまった思考になるし,狭い範囲での思考になり,問題解決もうまくいかずに駄目だという感想になる.

 そうではなくて,様々な場面に適用して,少しずつ拡張したりして力を付けていく.そうした活動にこそ意味がある.実は奥深い.様々な場面に適用できるようになると,発散的に思考したいときにも,収束的に思考したいときも,上手に使えるようになる.それが状況に応じた問題解決につながる.

 加えて,大勢の子供たちが,わずかな指導者から学ぶ学校で,子供たちが真の意味で問題解決を学ぶには,一人一台端末が自在に活用できることが欠かせない.しかも,GIGAスクール構想の標準環境として整備された汎用のクラウドサービスの優れた機能群を,真の意味で活用できる状態が必要となる.そのためにはいくつかの準備が必要な地域も多いであろう.その場合は,まずは教師自身の問題解決のために,シンキング・サイクルやシンキング・レンズを活用することをお勧めする.実は,本書に示したことは筆者自身の問題解決法であるし思考法でもある.それらに中教審答申や学習指導要領等の解説,実践事例を加えたのが本書である.子供への指導の前に,大人でも充分に役立つと思う.少しずつ拡張させていき,自分の力になっていくような感覚を体験してみることが重要である.いずれそれらを実際に指導していくことになる. 

 このような背景から,本書では考え方や,徐々に拡張していっている様子の記述を充実させている.もっとハウツーとして,たくさんの問題解決法を知りたい方,具体的なワークシートとして示して欲しい方もいらっしゃるかも知れない.しかし,教師自身が試行錯誤しながら獲得していったり,そういう試行錯誤を子供たちに体験させたりすることが重要だと思っている.その結果,生きて働く問題解決能力が育まれ,学び続ける力につながる.
 
 本書にお示したことは,愛知県春日井市の先生方の御協力がなくては生まれることはなかった.稚拙なアイディア段階から粘り強くお付き合いをいただいた.春日井市教育委員会の水田博和教育長,春日井市立高森台中学校の水谷年孝校長,春日井市立藤山台小学校の久川慶喜教諭をはじめ,ここにはお示しできないほどの先生方のおかげである.東北大学大学院の堀田龍也教授には春日井市との出会いをはじめたくさんの御指導を賜った.そして何より東洋館出版社の大場亨氏がいらっしゃらなければ,本テーマでまとめることはなかったであろう.関係する皆様に深謝申し上げる.

児童が学習過程を身につけるための学習シールの活用

 当時は一人一台端末はなかったけども、この研究があったから今があるのだと思う.

高橋純,佐藤和紀,横溝卓也,水谷年季,安里基子,青木栄太,清水悦幸(2018)児童が学習過程を身につけるための学習シールの活用.日本教育工学会第34回全国大会講演論文集:765-766

JSET34_pp765-766_takahashi

 本実践にあたって、特に春日井市の久川先生には御世話になった.シールの有用性を証明してくださった.本当にこういう新しいことを上手に実践してくださるのはありがたいし、素晴らしい指導力の先生だと思う.

 学会発表時は、シールである必要がないとか、手で書けば充分とか、批判的な質疑が続いた.でも、久川実践、渋谷での実践のおかげで持ちこたえたと思う.シールというツールがあるから、子供に伝わるし、実践が普及する.しかし、やっぱりノートで行うことの限界.学習過程が本当に威力を発揮するのは一人一台端末になってからだと思う.

ノートであれば、情報の収集をした事項をまずはノートに書く.そして、整理・分析で表などに書き写し、それらからまとめる.何度も何度も同じことを書く羽目になる.付箋紙に書くという意見もあったが、これも難しい.しかし、ICTだとデータの再利用がしやすい.図表も使いやすい.結局、一人一台端末が導入されるまで実践が下火になってしまったが、それでも実践を続けてくださったのは本当に感謝しかない.一人一台端末のスタートダッシュはここにあったと思う.

黎明期における小学校での児童1人1台PC活用の特徴

これも古いネタだけど、
春日井を含めて、私にとっての一人一台端末活用はこの論文の内容に着想を得ている.

高橋 純, 高山 裕之, 山西 潤一(2021) 黎明期における小学校での児童1人1台PC活用の特徴, 教育情報研究, 2020-2021, 36 巻, 3 号, p. 3-14

本論文のルーツは、2015年度の富山大卒業生の高山君の卒論だ.この時、途中から学芸大に異動したけども、毎月、東京から富山に行き、駅前の喫茶店でゼミをやったのは良い思い出.

当時、一人一台端末の活用法に関する枠組みで有名なものは、「教育の情報化に関する手引」などにも掲載されていた以下の図だ.フューチャーでの実践の分析結果から生まれている.

私は、当時は委員でも何でもなくて、これが文科省から示されたときに非常な違和感を持っていた.これでは実践も、実践の分類も困難だろうと.

そこで、同じくフューチャーの実践を分析してみて、別の結論に達した.これが本論文に紹介されている.この一例が以下の表.

実践事例を切片化して、KJ法のようにまとめていったのだけども、何度も検討を繰り返しているうちに、「情報の収集」とかの見出しがついた.ICTは情報を扱う道具であるので当然の結論だと思った.加えて、あれ、ちょっと待て、これって探究的な学習の過程の各項目ではないかと思った次第.

ただし、「まとめ・表現」ではなく、「まとめ」と「発表」は分けている.まとめはワープロなどにまとめるし、発表はプレゼンなどになるので、ICT活用的には2つをまとめて「まとめ・表現」とはできなかった.

さらに考察では学習過程としてまとめてみている.

結局、当時はこれを査読論文にする時間が無かった.その後、数々の実践を行い、本成果に確証を得たと同時に、コロナ禍で時間もあったのでやっと投稿できて、再録された.

この論文の採録とは前後するが、2018年のJSET全国大会での口頭発表「児童が学習過程を身につけるための学習シールの活用」は、この論文に書かれている成果をPCのない中でも実現するための工夫の話.黒上先生に倣って「シンキング・サイクル」商標登録が認められたのは2019年.このあたりはまた別のスレッドで.NITSの教員研修動画などでも話し続けた.私は一人一台端末活用の2本目の動画で登場.1本目の先生や手引とは別の話になってしまうが、高山君のおかげで根拠はあったので仕方ない.

今や一人一台端末の活用は、学習過程で論じるのが当然の感がある.本当によかった.

デジタルトランスフォーメーションにおける授業モデル

ずいぶん前のネタです

日本教育工学会でのシンポ登壇などで発表したものまとめて、査読論文として学校教育学会に掲載いただいた.ありがたい.ただ、J-Stegeなどに掲載されておらず、幻の論文風なので掲載してみる.

高橋純(2021)デジタルトランスフォーメーションにおける授業モデル
日本学校教育学会年報 3巻 21〜33 日本学校教育学会

今さらながら読んでみると、両者のイメージの比較として良かったと思うけども、教室のイメージとするならば、以下の図はもう少し補足が必要だったかも.一応、本文には書いているけども.

そこで改めて、本文に合わせて作ってみると、ざっくりだけど、こんな図かも知れない.

振り返って、春日井なども含めて、一人一台端末でうまくいっているなと思う実践はこうだったんだと思う次第.

動くようになった

このところ置いているサーバーが遅くて更新が滞っていた.この度、サーバを別の会社に置き換えたのでリスタート.

という言い訳はあるが、
今年は、やはり教授昇任とJAET会長就任の影響に加え、コロナ禍からの回復で仕事量を見誤っているために、HPを書いている場合ではない、という状況.

という言い訳はあるが、
今年は、11月まで生まれて初めてラジオ英会話が続いているので、単にやる気の問題かも知れない.