深い時短

「深い時短」(と名付けて、いつも話しているけども)

短い学習時間なのだけども、深く学べているのではと感じる授業を参観するようになってきた.という、複線型の授業の話題.

複線型の授業自体は、お手本の授業を参観して、適切なICT環境があればたちまち見た目には実現できる.もしうまくいかないことがあれば、それは先生よりも、ICT環境に起因することが多いと感じている.

その上で、さらに本質的な意味で複線型が実現できていると「深い時短」な授業だなと感じることがある.ある意味で、従来の授業と比較して異次元な感じすらある.従来、教員間で共有されてきた授業に対する素朴概念(とは言わない?)とは、ずいぶん考え方が違う.大きな意味での授業の理想は共有できていたはずなのに、実際になると、なぜできなかったのかといえば、それはその下位にあたる授業に対する素朴概念のようなものが邪魔をしていたのだと感じる.それはICTというツールを実際に使うことでほぐれていく.ただ、このICT、こちらにも素朴概念のようなものがあって、わざわざ余分な予算や時間をつかって残念にしたりしている地域もある.

とにかく、近頃、子供一人一人の興味関心に応じつつも、無駄な時間が少なくなった授業.それぞれの子供にとっての最高速で、高速にアプトプットとインプットを繰り返す「学習の高速化」時代がやってきたのではと感じる次第.そういう「深い時短」な授業をさらに追究しようと思っている.

1人1台端末を活用した高次な資質・能力の育成のための授業に関する検討

2022年12月にJSET研究会で発表した.

https://doi.org/10.15077/jsetstudy.2022.4_82

一人一台端末をうまく授業で使うには、いくつも関門がある.
講演で呼ばれてもその一部しか話すことができない.

そして、今年は辛い事も多かった.どう考えても良き実践になりそうにないICT環境が整備されている自治体での助言だ.ただ環境には自信があるみたいで、自治体担当者の動きは鈍い(GIGAの標準環境よりもお金をかけていることが大抵なので、もちろんそうなるのは必然なのだけど).結果、大変な思いをするのは、一人一台端末を信じて、実践をする先生方だし、そういった不十分な授業を受ける子供たちだ.

一方で研究にもいろいろとある.

1)一人一台端末を授業で活用するポイントは何か、2)1)を前提に、どのように活用したら本質的に意味のある実践になるか、といった研究が混在している.当然、1)の人たちは2)はまだ先のことだと思っているし、1)もまだ不十分だと思っているから、活用の初期段階の研究が披露される.1週目研究、2週目研究とか呼んでいるけども、この区別もついていないので、これをハッキリさせたいとも思っていた.

実は、村上や当麻の発表も難解すぎて通じないようで、質疑も低調である.本報告を突破した上での実践を報告していると前提を整える必要もあると感じた.それは私の役目だろうと思った(本番では村上発表に質疑が行ったので成功?).

などなどから、一人一台端末をうまく活用するための条件を、なるべく網羅的に書くことを試みた.全然、研究発表ではなく、「随筆」的で恥ずかしいのだけども、今の状態をまとめおくことに意味があると思った.

ついでに生まれた図7は、講演や初期理解にはぴったりなネタだけども、研究者的には恥ずかしい.でも、私の趣味は「普及」なので、それはそれでいいと割り切って書いてみた.

以下に図を抜き出してみる.本文はリンクをどうぞ.

高橋 純, 1人1台端末を活用した高次な資質・能力の育成のための授業に関する検討, 日本教育工学会研究報告集, 2022, 2022 巻, 4 号, p. 82-89, 公開日 2022/11/28,
https://doi.org/10.15077/jsetstudy.2022.4_82

2022_JSET2022-4-B1

情報活用能力の目標や内容及び 「学習の基盤となる資質・能力」等との関係に関する検討

2022年7月に日本教育メディア学会研究会での発表である.

現在の学習指導要領に、学習の基盤としての情報活用能力をどのように位置づけると良いのか、資質・能力との関係はどうか、等々をまとめた.図だけ抜き出すと以下のような感じ.

高橋純(2022)情報活用能力の目標や内容及び「学習の基盤となる資質・能力」等との関係に関する検討.日本教育メディア学会研究会論集 No.53:36-41 202207
https://salmonmink3.sakura.ne.jp/wp-content/uploads/2022/07/ronshu_53_2022_no1.pdf

情報活用能力の目標や内容及び-「学習の基盤となる資質・能力」等との関係に関する検討

学び続ける力と問題解決―シンキング・レンズ,シンキング・サイクル,そして探究へ

せっかくの初めての単著の発売なのに、今になってブログに載せるなんて、すいません.

本当に良きチャンスをいただいていたにも関わらず、ずっと書けずに、年の単位で遅れていた.さすがにまずい…というタイミングが来てしまい、これまでのプロットを無視して書きたいことからどんどん書いていった.そしたらあっという間に書き終わったという本.村上君には同じ事ばかりですねーと言われたけども、これが限界だった.

結局、プロットとも異なる内容になった.そして、編集長のアイディアでこんな大胆なタイトルに.うーむ.私からICTを取り上げて売れるのか心配だったけども、ありがたいタイトルで納得.

現在2刷となった.こちらもありがたい.

以下にまえがきをお示しする.

 どうしたら問題を解決する力がつくのか,過去から重要だといわれているのにどうして指導法が確立しないのか,児童生徒一人一台端末が前提となった授業ですべきことは何だろうか,と考え続けた.

 まずたどり着いたのは,決して最初から多くを示してはならないということである.例えば,学習指導要領解説には「考えるための技法」として,比較する,分類する,関連付けるなど10個ほどが示される.どれも重要ではあるが,示せば示すほど,親切で分かりやすいものの,指導者はこれらをしっかりと教えようと努力し,学習者はこれらを身につけようと努力する.まるで受験勉強のようにである.結局,コンテンツ・ベースの学習に落とし込んでしまう.

 コンピテンシー・ベースの学習として,つまり実際に行動できるレベルまで高めるには,自分自身が納得しながら,そうした力を少しずつ手に入れたり,その力を少しずつ拡張したりしていくしかないと思った.学び続ける力をつけるとはこういうことであろう.その際,必要となる最も基本で汎用的な要素とは何かと考えた.それがシンキング・サイクルやシンキング・レンズである.

 シンキング・サイクルやシンキング・レンズを,各教科等での学習や学校生活のみならず,日常生活での問題解決にも使ってみる.様々な場面に適用できることが分かる.それが分かれば,もっと適用したくなる.ほとんど同じパターンだが,少しずつ拡張していることが分かってくると面白さを感じてくる.拡張のためのコツすら手に入れ始める.気がつけば,比較だけではなく,分類や,関連付けも知りたくなる.いや,自然とやってしまっている子供もいる.

 最小の要素としてのシンキング・サイクルやシンキング・レンズであるので,記憶すること自体は比較的に簡単である.あっという間に覚えられるし,分かったつもりにもなれる.そして実際の問題解決において,これらを単純に適用してみれば,型にはまった思考になるし,狭い範囲での思考になり,問題解決もうまくいかずに駄目だという感想になる.

 そうではなくて,様々な場面に適用して,少しずつ拡張したりして力を付けていく.そうした活動にこそ意味がある.実は奥深い.様々な場面に適用できるようになると,発散的に思考したいときにも,収束的に思考したいときも,上手に使えるようになる.それが状況に応じた問題解決につながる.

 加えて,大勢の子供たちが,わずかな指導者から学ぶ学校で,子供たちが真の意味で問題解決を学ぶには,一人一台端末が自在に活用できることが欠かせない.しかも,GIGAスクール構想の標準環境として整備された汎用のクラウドサービスの優れた機能群を,真の意味で活用できる状態が必要となる.そのためにはいくつかの準備が必要な地域も多いであろう.その場合は,まずは教師自身の問題解決のために,シンキング・サイクルやシンキング・レンズを活用することをお勧めする.実は,本書に示したことは筆者自身の問題解決法であるし思考法でもある.それらに中教審答申や学習指導要領等の解説,実践事例を加えたのが本書である.子供への指導の前に,大人でも充分に役立つと思う.少しずつ拡張させていき,自分の力になっていくような感覚を体験してみることが重要である.いずれそれらを実際に指導していくことになる. 

 このような背景から,本書では考え方や,徐々に拡張していっている様子の記述を充実させている.もっとハウツーとして,たくさんの問題解決法を知りたい方,具体的なワークシートとして示して欲しい方もいらっしゃるかも知れない.しかし,教師自身が試行錯誤しながら獲得していったり,そういう試行錯誤を子供たちに体験させたりすることが重要だと思っている.その結果,生きて働く問題解決能力が育まれ,学び続ける力につながる.
 
 本書にお示したことは,愛知県春日井市の先生方の御協力がなくては生まれることはなかった.稚拙なアイディア段階から粘り強くお付き合いをいただいた.春日井市教育委員会の水田博和教育長,春日井市立高森台中学校の水谷年孝校長,春日井市立藤山台小学校の久川慶喜教諭をはじめ,ここにはお示しできないほどの先生方のおかげである.東北大学大学院の堀田龍也教授には春日井市との出会いをはじめたくさんの御指導を賜った.そして何より東洋館出版社の大場亨氏がいらっしゃらなければ,本テーマでまとめることはなかったであろう.関係する皆様に深謝申し上げる.

児童が学習過程を身につけるための学習シールの活用

 当時は一人一台端末はなかったけども、この研究があったから今があるのだと思う.

高橋純,佐藤和紀,横溝卓也,水谷年季,安里基子,青木栄太,清水悦幸(2018)児童が学習過程を身につけるための学習シールの活用.日本教育工学会第34回全国大会講演論文集:765-766

JSET34_pp765-766_takahashi

 本実践にあたって、特に春日井市の久川先生には御世話になった.シールの有用性を証明してくださった.本当にこういう新しいことを上手に実践してくださるのはありがたいし、素晴らしい指導力の先生だと思う.

 学会発表時は、シールである必要がないとか、手で書けば充分とか、批判的な質疑が続いた.でも、久川実践、渋谷での実践のおかげで持ちこたえたと思う.シールというツールがあるから、子供に伝わるし、実践が普及する.しかし、やっぱりノートで行うことの限界.学習過程が本当に威力を発揮するのは一人一台端末になってからだと思う.

ノートであれば、情報の収集をした事項をまずはノートに書く.そして、整理・分析で表などに書き写し、それらからまとめる.何度も何度も同じことを書く羽目になる.付箋紙に書くという意見もあったが、これも難しい.しかし、ICTだとデータの再利用がしやすい.図表も使いやすい.結局、一人一台端末が導入されるまで実践が下火になってしまったが、それでも実践を続けてくださったのは本当に感謝しかない.一人一台端末のスタートダッシュはここにあったと思う.

黎明期における小学校での児童1人1台PC活用の特徴

これも古いネタだけど、
春日井を含めて、私にとっての一人一台端末活用はこの論文の内容に着想を得ている.

高橋 純, 高山 裕之, 山西 潤一(2021) 黎明期における小学校での児童1人1台PC活用の特徴, 教育情報研究, 2020-2021, 36 巻, 3 号, p. 3-14

本論文のルーツは、2015年度の富山大卒業生の高山君の卒論だ.この時、途中から学芸大に異動したけども、毎月、東京から富山に行き、駅前の喫茶店でゼミをやったのは良い思い出.

当時、一人一台端末の活用法に関する枠組みで有名なものは、「教育の情報化に関する手引」などにも掲載されていた以下の図だ.フューチャーでの実践の分析結果から生まれている.

私は、当時は委員でも何でもなくて、これが文科省から示されたときに非常な違和感を持っていた.これでは実践も、実践の分類も困難だろうと.

そこで、同じくフューチャーの実践を分析してみて、別の結論に達した.これが本論文に紹介されている.この一例が以下の表.

実践事例を切片化して、KJ法のようにまとめていったのだけども、何度も検討を繰り返しているうちに、「情報の収集」とかの見出しがついた.ICTは情報を扱う道具であるので当然の結論だと思った.加えて、あれ、ちょっと待て、これって探究的な学習の過程の各項目ではないかと思った次第.

ただし、「まとめ・表現」ではなく、「まとめ」と「発表」は分けている.まとめはワープロなどにまとめるし、発表はプレゼンなどになるので、ICT活用的には2つをまとめて「まとめ・表現」とはできなかった.

さらに考察では学習過程としてまとめてみている.

結局、当時はこれを査読論文にする時間が無かった.その後、数々の実践を行い、本成果に確証を得たと同時に、コロナ禍で時間もあったのでやっと投稿できて、再録された.

この論文の採録とは前後するが、2018年のJSET全国大会での口頭発表「児童が学習過程を身につけるための学習シールの活用」は、この論文に書かれている成果をPCのない中でも実現するための工夫の話.黒上先生に倣って「シンキング・サイクル」商標登録が認められたのは2019年.このあたりはまた別のスレッドで.NITSの教員研修動画などでも話し続けた.私は一人一台端末活用の2本目の動画で登場.1本目の先生や手引とは別の話になってしまうが、高山君のおかげで根拠はあったので仕方ない.

今や一人一台端末の活用は、学習過程で論じるのが当然の感がある.本当によかった.

デジタルトランスフォーメーションにおける授業モデル

ずいぶん前のネタです

日本教育工学会でのシンポ登壇などで発表したものまとめて、査読論文として学校教育学会に掲載いただいた.ありがたい.ただ、J-Stegeなどに掲載されておらず、幻の論文風なので掲載してみる.

高橋純(2021)デジタルトランスフォーメーションにおける授業モデル
日本学校教育学会年報 3巻 21〜33 日本学校教育学会

今さらながら読んでみると、両者のイメージの比較として良かったと思うけども、教室のイメージとするならば、以下の図はもう少し補足が必要だったかも.一応、本文には書いているけども.

そこで改めて、本文に合わせて作ってみると、ざっくりだけど、こんな図かも知れない.

振り返って、春日井なども含めて、一人一台端末でうまくいっているなと思う実践はこうだったんだと思う次第.

動くようになった

このところ置いているサーバーが遅くて更新が滞っていた.この度、サーバを別の会社に置き換えたのでリスタート.

という言い訳はあるが、
今年は、やはり教授昇任とJAET会長就任の影響に加え、コロナ禍からの回復で仕事量を見誤っているために、HPを書いている場合ではない、という状況.

という言い訳はあるが、
今年は、11月まで生まれて初めてラジオ英会話が続いているので、単にやる気の問題かも知れない.

【4団体会長特別企画】教育の情報化の道程と今後の展望~授業におけるICT活用を中心に~

昨年秋にJAET会長が内定した際に,会長経験者の山西先生や堀田先生,副会長や常任理事を長くお務めいただいた大久保社長から,いろいろとお話を伺いたいと思った.独り占めは良くないと本イベントとなった.司会を佐藤先生にお願いし,佐藤先生にとっては准教授昇任のお披露目ともなった.気がつけば大きくなってしまったイベントを,丁寧に運営してくださった内田洋行の皆様には大感謝.

このイベントを企画した際は,教授昇任は話題にもなっておらずであったが,結果的に,大恩ある先生方とイベント登壇しながら,御披露できたことは本当によかった(その前に,Googleと東北大セミナーが入ってしまったが).

私が,最も最初に出会ったのは大久保さんかもしれない.僕が大学院浪人中の23歳の年で,大久保さんは課長だった.同じ年か翌年に,堀田先生とも出会ったと思う.助手でマスターだったと思う.山西先生は既に有名人で,僕を認識してもらったのは25歳の海外視察の時,成田空港だったと思う.その頃も,あまりに成績が悪くて,いろいろ受験したけども,修士課程も,博士課程も,一年目には合格できず紆余曲折.その後,博士取得も,就職も,学会役員も,文科省の委員も,教授昇任も,常に年下の人たちの方が早くて,数周遅れ.本当に粘り強く,御指導をいただいた.

最近,私を知った人はわからないと思うけども,本当に力不足で人より遅い.でも,人とは比べない(ように心がける,なるべく過去の自分と比較),対象を絞って長く仕事をする,その仕組みづくりが功を奏し始めた40代後半だったと思う.大先生たちと並んでセミナーが出来るようになったことが本当に嬉しかった.

当時,電子黒板やフューチャー(一人一台端末の活用)といったICT活用について,私の研究成果が,政策に反映することはなかった.文科省のドキュメントに載る活用法が,自分たちの研究成果と異なることに悔しさが強かった.常に傍流で,もう多くの研究者が手を引いたときに,やっと仕事が回ってくる状態で,その頃にはたくさんの現場の先生たちがあきらめた後で,手遅れだった.

今年は50歳になる.近年は,多くの役割をいただいて,気がつけば先頭にいるかも知れない状態.自らの研究のみならず,普及のための取り組みも含めて,よりよい教育の情報化の発展のために,これまでの経験と反省を生かして,努力していかねばならないと,強く思った.

__

4団体会長特別企画】教育の情報化の道程と今後の展望
~授業におけるICT活用を中心に~
4月23日(土)15:00|無料オンラインセミナー開催
<登壇者>
山西潤一(日本教育情報化振興会会長/上越教育大学監事)
大久保昇(日本視聴覚教育協会会長/株式会社内田洋行代表取締役社長)
堀田龍也(日本教育工学会会長/東北大学教授・東京学芸大学教授)
高橋 純(日本教育工学協会会長/東京学芸大学教授)
【司会】 佐藤 和紀(信州大学准教授)
<開催日時>
2022年4月23日(土)15:00~17:00
---
GIGAスクール構想の実現により1人1台の端末が配備され、教育の情報化は加速度的に進展しています。
ここまでの経緯を改めて4団体の会長に振り返っていただくとともに、今後の教育の情報化の在り方について、
それぞれのお立場からお話しいただきます。
---
実施形態:オンラインでの開催(YouTubeライブ)
参加費:無料
対象:どなたでもご視聴いただけます
主催:New Education Expo実行委員会
協力:株式会社内田洋行 教育総合研究所