オーストラリアの旅のまとめ(10/16)

今回,メルボルンとブリスベンに滞在し,両州の教育省と4校ずつの学校,計10箇所を訪問した.広い広いオーストラリアのほんの一部,しかもICT活用が進んだ学校ばかりを訪問しただけであるが,経験したことをまとめたい.

ICT活用に関しての最も大きな話題は,児童生徒によるICT活用,特に1人1台端末の活用であった.この数年で急速に整備が進んでいるとのことであった.急速である最も大きな要因はBYODであろうと思う.公立の小学校ですらBYODが採用され,保護者がタブレットやラップトップを用意する.その管理や充電の責任も基本的には本人や保護者にある.学校は無線LANやテクニシャンを配置したITヘルプデスクを設置して,活用を加速させる.この普及のスピードは恐ろしいほどはやいと思った.機種について,タブレットは小学校の低学年で使われることが多く,高学年や中学校以上ではラップトップが中心のようであった.昨年度の米国でも同じ傾向はあった.

訪問させてもらった全ての学校で,児童生徒は情報端末をほぼ不自由なく使っていた.もちろん,少し使うのが苦手そうな児童生徒や,ハッキリ嫌いという児童生徒も一部にはいたが,小学生でもIDとパスワードをすらすら入力する場面を確認できた.そういう操作について,段階別に計画を立てて教えている小学校は1校だけであった.もう1校では,特にそういう操作指導は計画的に行っていないとのことであった.1人1台の多くの活用は,ブラウザでの検索,ワープロ(Onenoteも含む),マインドマップ,メールなどであった.ほとんどは大人が行うような活用である.日本のように教室用に特別に開発された学習支援ソフトで画面を共有して発表といったことははない.また,中学校などの専門的な教育で,学校のデスクトップマシンでグラフィックデザインをしたりする.さらに,一部でプログラミングを行っているところも見ることもあったが,これらは選択だし,一部であるとのことだった.

児童生徒1人1台はまさにノートのように,学習の道具に位置付いていた.結果,それだけ取り上げると,ホントに何でもない,ささやかな活用ばかりである.学習活動に本質的な何か大きな変革が起こったとは思えない.でも,活用は確実に定着している.ここに価値があると思った.この後,徐々に変化を果たし,しばらくすると大きな変革が起こったように感じるのだろう.そんな予感とそんな変化の瞬間に立ち会ったと思った.

ただ,こういった変革は,学校に40台のタブレットを導入程度では起こりえないこともよく分かった.それは台数が少ないからだけではない.オーストラリアでは,宿題の配布や提出,家庭との連絡をオンラインで行うのみならず,成績や学習記録,カリキュラムや教材(デジタル教科書ではない)等もほとんどがオンライン化されていた.これらは1人1台が必要となる理由と密接に関連している.こういった多くの要因が少しずつブラッシュアップしていけば,ずいぶん現在とかけ離れた姿になるだろう.

また,検索等をしている学習活動だけをみると,これで学習になっているのか疑問になる.しかし,その学習活動は,思考力育成のプロセスとして,きちんと位置付いており,そのトレーニングである.よく黒上先生らが主張される思考力育成のプロセスと似ているし,そう考えないと誤解を招くこともよく分かった.

このように児童生徒の1人1台は,単に授業での1人1台の活用のみならず,様々な教育情報のオンライン化とか,思考力の指導手順の明確化といった指導法やカリキュラムとか様々な要因と連動している.そのように思うと,私がなすべき事もより重層的に考える必要があると感じた.

一方で,授業における教員によるICT活用は,話題にならなかった.それでも,各教室には電子黒板,プロジェクタ,大型TVのいずれかは必ず設置されており,何かを一斉提示することは盛んに使われていた.そして相変わらず電子黒板はあっても,電子黒板として活用されていたシーンをみることはなかった.やはり電子黒板の予算がなければ,プロジェクタや大型TVで充分であろう.そうして全ての教室に常設しなければならない.残念ながら,日本はここから頑張らないといけないと改めて痛切に思った.

オーストラリアでも一斉指導は,中高などではそれなりに行われており,日本の工夫の少ない授業のような一方的な授業も何度もみた.結局,習得すべき内容を教える場合は,一斉指導に頼りがちなのだろう.そして,オーストラリアの授業では,習得すべき学習内容の教え方は雑である(一方で,思考力など活用や探究に関する指導法が明確になっているところが日本と逆ではないか).なので,電子黒板に提示されている内容もかなり雑で,日本ではあり得ない.もちろん板書も同じように雑である.なので,どうでもよいと思われているのか,ほとんど話題にならない.

次に,校務情報化に触れておきたい.先にも述べたが,日本でいう校務情報化が狭義にみえるほど,オーストラリアでは教科指導などとも密接に関連している.学校運営に必要なあらゆるデータがWebで管理されており,教員の権限ごとにみえる情報が変わったり,グラフ化して瞬時に視覚的にとらえられるようになっていたりしていた.何か質問をすると,校長先生がWeb上のデータベースで調べて,根拠をもって回答しようとするシーンも見られた.経験に基づくだけではなく,リアルタイムなデータに基づく判断が気軽に出来る環境は大きいと思った.

最後に,先生も児童生徒も,ICT活用をする一番の理由は「楽」だからではないかと思った.「楽」という言葉は何度もメリットして語られていた.丸つけをしなくて楽だから,綺麗な字が書けて楽だから,教科書よりも軽くて楽だから,なんて感じである.「楽から始めようICT活用」なんて日本で言ったら税金の無駄遣いだ,先生が「楽」しているとか言われそうだけども,ポジティブで新しいものも柔軟に取り入れるオーストラリアっぽい考え方なのかも知れない.このあとも何度かオーストラリアに訪問して確かめていこう.

おわりに,教員研修センターをはじめ多くの皆様の御協力で,旅が大成功に終わったことに感謝申し上げたい.特に,訪問地や訪問校を決める最初の段階からオーストラリア大使館,ビクトリア州政府駐日事務所,NECの皆様には多大なる御協力をいただいた.センターの厳しい?条件を満たした視察日程を苦労してまとめていただいただけではなく,とても有意義な訪問先を選んでいただけたことは大変にありがたいことであった.また,今年も団長,副団長,団員の皆さん,添乗員さんや旅行代理店に恵まれた.なんと,今年は最終日に,急遽,視察でお世話になった先生を招いての夕食会も催すことが出来た.これも団員が本当に短い学校訪問中に交流を深められた成果だと思う.

何もかもうまくいき,とてもとても嬉しく思った.